ネクタイとシャツの組み合わせる固定な方程式がないのです。勝手にしても大丈夫ですが、心楽しいだけでいいのです。でも、心楽しいって何かわからない男子たちは下の基本的な規則は有効でしょう。
ネクタイとシャツの基本的な組み合わせる方法
すべての男子は少なくとも1件の白いあるいは青い紳士シャツ。ネクタイの方は少なくとも紺あるいはワインレッド のが昼間時に使え、また花絹のネクタイあるいは黒いネクタイはパーティーの時に蝶結びの代わりに備えます。
ネクタイから
ネクタイは衣装の最も目を引くところので、ずっともっとも重要な作用があります。一般に、ネクタイと洋服のくみあわせは一番重要のです。重んじる観点から見ると上着の色はネクタイの基礎色のです。
シャツを選び
ネクタイと上着の組み合わせを決まったら、シャツを選ぶのは簡単になった。一般に、シャツの色はネクタイで第二重要な色とつり合うといいのです。図案といえば、ネクタイの図案はシャツよりもっと目立つのほうがよいのです。 時には、図案が鮮明なシャツとネクタイを選んでも大丈夫のです。でも、ネクタイの図案がシャツより目立つのほうがよいのです。
流行な組合わせ
最近、モノクロな衣装組み合わせが流行している。ファッションしたいだったら、モノクロ色合い差シャツとネクタイにしようか。こんな組み合わせには、ネクタイの色はシャツより暗い方がいいですが、完全に同じな色でもよいのです。
クラッシク組み合わせ
永遠なファッション組み合わせは白いあるいは青いシャツと明るい図案があるネクタイのです。これはずっと流行遅れない組み合わせで、どんな場合にも適切のです。
感覚
服装の組み合わせで、簡単のがずっと一番のです。もしネクタイを選ぶのは下手だったら、これが一番の選択のです。
調和
服装を組み合わせる時、 すべての細い点を考慮に入れるすべきです。シャツ、ネクタイ、洋服またほかのものです。すべてものはほかのものとある程度の関係があるほうが一番のです。夫婦の関係みたいで、交流がないと調和がないのです。
2011-01-23
ネクタイとシャツの組み合わせる 方程式
2011-01-12
初めてハイヒールを体験する
服に組み合わせることができるため、新年を祝う時はひとペアのハイヒールを買って、恐らく6,7センチメートルの高さがあって、どこに店の中で、試みているのがとても、楽だと思い付いて、歩いて醜態の限りを尽くすことを身につけています。気軽に小さくいくつの歩に、そぞろ歩きをしてなんと問題がなくて、歩いて百メートルの道を上回ります。面倒をかけることがあります。痛みが歩いて、言わないことを我慢して、双足はとてもこわばって、他の人が見ていて足どりのようです便利ではありません。子供を生んでから後で、すべて低いことのと靴を着ました。と昨年末に、組を買ったのはとても高くて、更に本当であることを身につけていて、少し慣れません。かつて、私はハイヒールを着て、花嫁の介添え人になって、一日歩いて、足の上ですべて、長い泡。私も過大に、サンダルを買います。着た後に歩くことができなくて、ゆっくり移動することしかできません。昨年末、私はまたふと思いつい、組を買って、身につけていますががとても痛くて、とても疲れて、しかしメンツを重んじて、顔はまたとても、満足する様子を装います。街をぶらつく時、1家の商店に入って、腰を下ろして、二度と立ち上がりたくなくなりました。ハイヒールに対して、愛しましたり,恨みましたりするのです。靴は足にぴったり合って最も重要で、ハイヒールを着て、確かに女の人の味の1時があることに見えて、体の割合は少しきれいです。でも選択は、自分の高度によって、最も重要なことは似合うのです。おしゃれな自分に苦労をかけないでください。
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2011-01-11
魔術師組合という小説を転載ー受難4
需品課本来の仕事は、組合員に貸し出す備品の在庫調整や新製品の査定、買い付けといった、主に魔導具そのものの管理全般である。就職後しばらく、倉庫の中で自慢の腕力をもって奮闘した結果、ネーナは若くして課長補佐に抜擢された。半年前のことだった。アバクロ
魔導具の中には、それ一つで城が建つほど値が張るものもある。そういう代物をじかに管理する需品課長ともなれば、宮城に出入りすることも可能だ。その補佐をするとなったら、特級魔導具などのお宝に触れて眼福にあずかることもあろう。
大食いと怪力だけが取柄の自分が、学院の筆記試験の開始直前には教授たちに必ず「落ち着いて、問題をよーく読みなさい」と念を押され続けた自分が、成績評定表には常に「評価不能」と書かれ続けた自分がまさか――と感激に打ち震えたのも束の間。待っていたのは特級魔道具ではなく、サイン待ちの紙の山だった。
ネーナは両手を腰にあて、むんとうなってデスクの上を睥睨する。
山積みの書類は年末から少しもかわることなく――いやむしろその高さを増して彼女を待ち受け、サンプルにと組合員がもってくる匙やら金槌やら使途不明な小物やらのおかげで、デスク周りで荒物屋が開けそうな勢いである。快適な勤務環境とはいいがたい。
しかも先ほどから、ランチを終えて戻ってみたら忽然と姿を消していたペンとインクを探しているのだが、残念なことにこの偽荒物屋の品揃えにはないようだ。大方それを持ったままどこかに置き忘れてきたのだが、己の行動を遡って省みられるようならば、いまごろもっとマシな人生を送っているにちがいない。
「……バニー、ペン貸して」
書類とガラクタの河を越えた隣のデスクに向かい、せっせと新たな書類を生産している同僚に声をかけるが、彼は下を向いたままひらひらと手を振った。
「またなくしたのぉ? いやぁよーぅ。さっき庶務からもらってきたばかりなのに、ネーナが使うと半日で軸から壊れちゃうもの」
「なんだとぉ!? いいからよこせ、バカマ! 壊れたら作ればいいだろうが! 広場で鳩でも捕まえろ!」
「ね、ネーナったら凶暴だわ……しかもいまどき羽根ペンって……」
怯えて潤む小さな目を見ないようにして巨大な手からペンをひったくり、インクもないことを思い出して無言のままバニーのものを分捕る。
「今日中にこの山を半分に減らす。そして黒山羊亭でおいしいもの食べて飲んで帰る」
「素敵な計画だけど、ちょっと無謀だと思うわぁ。その山、この半年ほど高くなったり低くなったり、ちょびっと動いてるだけよぉ?」
「シメられたいなら、はっきりそういえ」
地の底から響くような声ですごむと、バニーは首を振りながら小さくなった。
「そんなに怒ったらお肌にわる――ごめんなさい」
いらぬ一言を地獄の門番みたいな視線に遮られ、小山の化身が顔をそむける。
山の上から書類を取り上げて広げ、関連資料を背後の棚から引っ張り出す。垂れてきて邪魔な長い巻き毛は、床に落ちていた麻紐を拾い上げて適当にくくった。キラキラフリフリ好きな同僚が、哀れむような非難するような眼で見ているのがわかったが、完全無視。
サインするだけで済むようなものを優先して片づけ始めたところに、新たな書類が積まれる。芽生えた殺意を飲み込んで顔を上げると、ジールが眼鏡越しに自分を見下ろしていた。
「……なんだ、ジールか。不景気なツラでここに現れんなって、いっつもいってんじゃん。士気ってヤツがガタ落ちすんだよ」
「八番街東の人形師から、魔導力増幅装置の改良用治験データが届いた。若干サンプル数が少ないようなんだが、認可できるかどうか検証してくれ」
目元に垂れる淡い金色の前髪の隙間から、青緑色の瞳が心持ち眇められているのが覗けた。朝の出勤途中はともかく――薄焼きパイに罪はない――、人の話を聞かず早口で自分の用件を突きつけてくるこの秘書モードのジールが、ネーナは嫌いだった。
「いますぐぅ? わたしがぁ?」
「無論」
きらっと眼鏡の縁を光らせての間髪入れぬ返答に、ネーナは再び膨らんだ殺意をため息とともに吐き出す。
「すぐは無理だよ。生体魔導学の研究用じゃなく、普通の人形用の装置だろ? そんな急がんでも」
「この人形師のパトロンは流行り物好きのダイン伯だ、早く商品化できれば相当な数が出るだろう。それにこの分野の研究はうちが他国に先んじている、一歩でも前に進むことに吝かでない。うまくすれば軍の需品にも食い込める」
「……儲け第一の非人道主義者め」
恨みがましい声を承諾ととらえたか、秘書は満足げにうなずく。軍人のような身のこなしで踵を返しざま、片眉を上げてネーナを流し見てから需品課を後にした。いまさら即売会で仕事を押しつけた意趣返しか、と一瞬うがった考えが頭をよぎる。
すらりとした後姿がドアの向こうに消えるのをなんとなく見送って、ふとデスクに目を戻すと、山の上に小さな紙袋が置いてあるのを見つけた。飾り気のない生成りの袋を何気なく手にとって振ってみると、かさついた音と甘い匂いが香って、中身がクッキーだと察知した。
慌てて袋の口を広げると、勢いあまってビリビリと破れ、狐色の菓子が次々とこぼれ出る。一体どこに持っていていつの間に置いて行ったのか、それはジールの差し入れだった。
おめざは毎朝だが、彼はたまにこうして、気づかぬうちに菓子やらパンやらをネーナのデスクに置いて行くのだ。お礼をいうことはないが、いわれたい様子でもないから気にしない。遠慮せず、赤い木の実があしらわれたクッキーにかじりついた。デスクワークは腹が減る。昼に食堂の日替わり定食を大盛りで二人前食べたのとはまた、話が別だ。
奥歯でばりばりと咀嚼しながら、二枚目のクッキーを唇にはさんで立ち上がる。広げたばかりの資料をたたんで、それをしまいつつ指定された治験のデータを探す。
魔導力増幅装置――それは小さな器械と魔法界第一層第一位階、つまり法界の最表層とをリンクして魔導力を高速循環させることで、半永久的に駆動するユニット。初期型が、魔術師が魔法界に流した魔導力を、増幅させて器械に戻す構造だったため、現在も便宜上そう呼ばれている。
詳細は開発者の秘匿特権で保護。ただ素材がある特殊な天然魔導鉱の核に近い部分であることと、加工にも安定にも高度な魔導工学と魔導具を用いる超高級品であることは有名だ。
三年前にこれができてから、人形師の階級(ランク)はドカンと上がった。体内に埋め込むだけで、人形が命を吹き込まれたかの如くひとりでに動くようになったからだ。その行動は、魔術師があらかじめ組む魔導式次第でいくらでも自由に決められる。装置のロックが開発者の記名に呼応して解除される仕組みなので、模造品が出回る懸念もない。
三十年前を最後に、戦渦から遠ざかった大国、トランティア女王国。終戦当時、日常を取り戻そうとするように人々は躍起になって文学や芸術、建築や美食といった中に娯楽を求め始めた。結果、現在のトランティアは「西大陸の華」とも呼ばれる絢爛で豪奢な文化を享受している。
この平和なご時世にあってヒマもカネも持て余すトランティア貴族の間で、いま最も流行しているのが、魔術師組合認定印の入った装置を組み込んだ人形集めなのである。魔術師のような知識や魔導力がなくとも、それらしい気分が味わえる、というのが売りだ。
そのうち人間じゃなく人形がお屋敷を占拠するぜ、と鼻を鳴らしながら、ネーナはその光景を思い浮かべて悦に入った。人形一体で自分の年給など軽くとんでいくことに、なにか思うところがあるわけではない。
「人形、ねぇ……」
キャビネットに突っ込まれたファイルの背を指でたどりながら、小さく疑念を噛み砕く。
実のところ、これを作ったのは人形師ではないだろうとネーナは踏んでいる。
随分長いこと操り人形から糸を省いたような代物しか作れなかったヤツらに、なぜ突然こんな高等魔導学を応用した装置を作り出せるというのだ。どれだけ隠れ忍んで研究したら、こうまで唐突に、しかも完成度の高い製品を持ってこられる。またこれだけ独創性と意外性に富んだ研究をするのに、どこに隠れ忍ぶ必要があるのかわからない。結果を見てもまだわからないという魔導工学の専門家がほとんどなのに、課程だけを盗み見て模倣できるわけがないのだ。
でもだれが開発しようと、ネーナの知ったことでもなかった。
申請したヤツの勝ち、売り出したヤツの儲け。それが生き馬の目を抜く魔導具開発の世界だ。
「うーん、どこだ。どこだどこだ……」
めちゃめちゃにファイルが詰まった棚をあさりながら、歌うようにつぶやいた。
治験データの検証には、厳密なルールがある。そんなものをいちいち覚えちゃいられないネーナが手順を書き記したファイルを引きずり出したところで、再びデスクに新たな書類が置かれる気配がした。
ネーナはクッキーを飲み込みつつ、振り向きもせずいった。
「なんだか知らないけどすぐは無理だからね!」
「だが俺のためなら、手を空けてくれるだろう?」
鼓膜を揺らす低い声に、足のつま先から頭のてっぺんまで痺れるような寒気が走り、束ねた髪が顔をはたく勢いで振り返る。口の端から、クッキーの欠片が飛んだ。
紙の山の向こう側で薄く微笑みを浮かべていたのは、濃灰色の詰襟の上に紺色のマントを羽織った、あの(・・)騎士であった。
「ファイス……スタイクス、様」
悪夢のようにうめいたのはバニーだ。名を呼ばれた騎士はにっこりと魔王の笑みを惜しげもなく披露し、ネーナに向かって手を差し伸べた。
「組合長から書類を預かったから、ついでに届けた。さ、行こうぜ」
また書類かよ、と言うべきなのか。あんたに持ってこさせたのか、と言うべきなのか。はたまた、行こうぜってどこにだよ! と叫んでみるべきなのか。
悩んでいる間に彼はついと歩み寄ってネーナの手から紙の束を取り上げると、それを後ろも見ずに肩越しでバニーに放って、おもむろに肩を抱き寄せてきた。ガラクタの大河は、長い脚で一跨ぎだった。
「ボスは快くおまえを貸し出して下さった。遠慮なく行ってこいとさ」
目の前に突き出された紙きれに目をやると、それは備品の貸出申請書。品目の欄にはネーナの姓名、期間は本日ただ今より――無期限。認証印は、見まごうかたなき組合長のものである。
「わたしはモノか! 無期限ってどういうことだよ、ムチャにもほどがあるだろ! そもそも、なんで職場にあんたが現れるのか理解に苦しむッ」
「待ち合わせの約束をしただろう? でもおまえは現れそうになかったからさ」
図星である。
確かにネーナは今日、急用ができるか腹を下すかして、約束の場所に行かれなくなる予定だった。
「そ……だからって――」
黒竜騎士サマが。わざわざ。街中に。魔術師のギルドに。一般市民を迎えに?
いいたいことをすべて飲み下して、かわりに巨大なため息を吐き出した。
静まり返った需品課、みなが口をあけて注目しているのが見なくてもわかる。
略装で所属が知れないとはいえ帯剣した騎士の装いで、しかも若い男が、よりによって魔術師としての賢さも女としての色気も、人としての魅力も壊滅したネーナの肩を抱いているのである。彼らもまた、一体どこからつっこめばいいのか悩んでいるのだろう。
だれとも目をあわさないようにしながら歩き出し、ネーナは魂が抜けそうなほど深くため息をついた。
2011-01-06
魔術師組合という小説を転載ー受難3
冬の休暇も明けて初日の朝、ネーナ・ヴァス需品課課長補佐は組合の通常業務に戻るべく元気いっぱい通勤途上にあった。
丘の上に建つ宮城の白い輝きを正面に、石畳の大路をひたすら歩く。弱々しくとも確かな陽光が東の空から差し込んで、キンと冷たく澄んだ空気にやわらかな 匂いを含ませた。湯屋から落とされた湯が運河に流れ込んで、川幅いっぱいにあたたかく白い煙を噴き上げる光景もこの季節ならではだ。
早朝のこの時間、都を放射状に走る大路は馬車の車列でちょっとした混雑を見せる。
彫刻や垂れ飾りと家紋入りのプレートで派手に主張する車体は女王宮へ参内する貴族、地味を装った高級素材の車体は商人を乗せている。宮城内の官舎でもなく、二番街の豪邸街に住むでもない中級軍人は、馬車でなく馬に乗って混雑に拍車をかけていた。
それを横目に歩道を闊歩するネーナの服装は、白いブラウスにハイウェストの黒いスカート、黒い腰丈の上着と、組合の制服でフル装備だ。襟元に締める赤い リボンは職場のロッカーに突っ込んである。義父のくれた高級コートのおかげで魔術師組合の職員であることが隠され、通行人から余計な憧憬の視線を向けられ ないですむのがいい。
それでも栗色の長い髪をなびかせ、足取りも軽く歩むネーナは人目を引いた。しかしいまは朝食に食べたペストリーの味を思い出して陶然としていたので、本人がそれに気づくこともない。
三番街の職場を目指して歩いていると、四番街の街門を越えたあたりで後ろから声をかけられた。
「おい」
という遠慮も愛想もまるでないその声には、覚えがあるなどというものではない。ネーナは渋々立ち止まり、襟の毛皮に頬を埋めるようにして振り返る。
果たしてそこには、親愛なる組合長秘書の姿があった。
「……おはよ」
口の中から消え去ったペストリーの味を惜しみながらも、朝の対面にふさわしい挨拶を述べる。落ちこぼれとはいえれっきとした社会人であるからには、好かない男にも挨拶くらいはするのである。
ジールはわずかな光でも吸収してキラキラと輝く淡い金髪を揺らし、ネーナの前に立って眼鏡の縁を押し上げた。冬の空気にも負けないくらい、冷たい表情のままで。
「新年最初の仕事から職務放棄とはいい度胸だ。服務規定違反で減給されたいか」
いきなりかよ、とネーナは唇の端で舌打ちした。悪夢と化した即売会の昨日、異常事態に巻き込まれたまま会場をばっくれたから、彼に面と向かうのはこれが新年一発目だ。なんかもっということあるだろ、と思いつつ、ネーナは歩き出した。
「あんたパパの秘書だろ、給与査定も仕事のうちかよ。それとも隠れ監査のバイトでもしてるわけ」
「朝っぱらから可愛くないことを。やらんぞ」
意味不明な言葉に訝しく思って顔を上げると、ジールは眼鏡に触れていた手の中に小さな紙包みを握っていた。見覚えのあるそれに、ネーナは口いっぱいに唾液があふれるのを感じた。
「やだなぁ、ちょっとした社交辞令じゃないか。よこせこらっ」
満面の笑みで瞳を輝かせ、ネーナはジールの手から包みを奪おうと跳び上がる。だがそれほど背の高くないジールが相手とはいえ、手を掲げられてしまうと、同じく背の高くないネーナには届かない。
「埋め合わせは?」
「は?」
ジールの胸倉をつかんでぴょんぴょん跳ねながら、精一杯手を伸ばす。彼はその手を頭の上で捕まえて、ぐいと顔を近づけてきた。
「おまえの代わりにこの俺が撤収まで働いたんだぞ。無事に休日手当てがほしかったら、感謝を示してほしいものだな」
楕円の眼鏡の奥に青緑色の瞳を覗き込み、ネーナは鼻に皺を寄せて顔をしかめた。
「アリガトウゴザイマス。はい感謝した、それよこせ!」
胸倉からはなした手で、紙包みを奪い取る。逆の手はつかまれたままだったので、歯を使って紙をやぶいた。その若い娘にあるまじき粗野な仕草にジールはため息をついたが、ネーナはおかまいなしで包みの中からこぼれたものに歓声を上げる。
ネーナの口でちょうど二口ほどの大きさ、薄い生地にジャムを挟んで焼いたパイ。仕事がある日はこうして毎朝ジールがくれる、ネーナの大好物だ。休暇中はもちろん会わなかったので、実に十日ぶりの味だった。
「久しぶりぃッ! いっただきまーす!」
恥じらいもなく大口開けてかぶりつくネーナを、ジールがつないだ手で引っ張った。ふ、と長く吐き出された白い息に彼を見上げると、その横顔は微笑んで見えた。錯覚か、と目を瞬いているネーナに気づく様子もなく、ジールは正面を向いたまま規則正しく歩いている。
目に優しくないキラキラの金髪と青緑色の瞳。北方の大国ダリトス出身の特徴も顕著なこの男は、真っ黒なインバネスの襟を飾る炎と杖の紋章で、隣に並べば せっかく一般市民にまぎれたネーナをも目立たせる。まぁ本人がそこそこ綺麗な顔をしているのも一因、ということも認めないではない。あの国の人間は、大抵 が細面でバランスのよい顔立ちなのだ。
ダリトス人の割には中背だ、バニーのほうがよっぽどそれっぽい、と頭の中で相棒を金髪碧眼にしてみて、あまりの似合わなさに吐き気を覚えた。
脳内の口直しに二つ目を要求する手を突き出せば、無言でそれに応じてくれる。いつかジールのポケットを引っくり返してあさってみよう、とネーナは心に決めていた。一体いくつ菓子の包みを仕込んでいるのだろうか。
だが二つ目も飲み込んでから尋ねたのは、別のことだった。
「ねえ、これどこで売ってんの? いい加減教えてよ」
「俺の縄張りを荒らされたくないから秘密だ」
毎度お決まりの回答に、ネーナはぶうとふくれた。
ジールがくれるおめざは決して珍しいものではないが、ネーナの知る限り最も美味だ。パイもジャムも絶品なのだから、きっと他の菓子も美味いにちがいない。しかしジールは絶対に店の場所を教えてくれないのである。
「ケチな男は嫌われるよ」
仕返しに自慢の怪力で手を握りしめてやったが、ジールは眉一つ動かさない。かわりに空いた手を伸ばしてネーナの頬に触れ、口元の菓子屑を払ってくれた。
「女ウケを狙うなら、まずおまえにやらない」
「あっそ」
ネーナはおとなしく菓子屑を払われながら、ブーツの踵でジールの脛を蹴飛ばした。
この眼鏡の悪魔とは、二年前、組合に就職したときからのつきあいだ。幼い頃世話になった孤児院を経営する貴族の後見は、魔導学院の卒業とともに打ち切られ、成人前だったネーナには新たな身元引受人が必要になった。そのとき養子縁組を申し出てくれたのが、組合長だった。
あまりに悲惨な成績を残して学院からとんずらしたネーナを哀れに思ったか、それともこんなイキモノを卒業生として社会に放つことを不名誉だと思ったか。学院総長でもある義父の立場を考えれば、後者であることは確実だろう。
とにかくも戸籍上の親となったチョビ髭親爺にくっついていたのが、このジール・バルツァーという秘書だ。正式な組合職員である総務課の秘書とはちがい、 彼は個人契約によって昼夜を問わず常に組合長の傍らにいる。必然的に、ネーナと過ごす時間も多くなるというわけだ。特に一人暮らしを始めた一年前からは、 四番街の入り口で合流して一緒に出勤するのが日課になっていた。
握ったジールの手の中に指先を丸め込み、そのあたたかさにほっとする。寝不足気味で頭はぼんやりするし身体は火照っているのだが、ネーナは指先が異常に 冷たい。寒いのも大嫌いだ。ジールのことは別に好きでもなんでもない、というか天敵とすら思うけれど、この時期だけは手をつなぐ相手がいるのは悪くなかっ た。
「ねえ、昨日って売り上げどんくらい?」
ガラガラと騒がしく車輪を鳴らす馬車に負けじと声を張る。ジールは少し考えて、顎先を長い指でつまんだ。
「需品課の年間総売上の約三割」
「げっ、マジ?」
頭の中で咄嗟に鍋何個分だろうと考えそうになり、やめた。組合で扱う需品の多くは組合員への貸与品だし、売るとなったらそれこそスプーン一本から給料何年分もの魔導具まで種類は豊富だ。
「うちの売上なんて一定してないじゃないか」
二年間しか在籍していなくともそれくらいはわかる。ネーナはなんの参考にもならない引き合いにむっとした。
ジールはくす、と知覚のぎりぎりでかすかに笑っただけ。
後は会話もなく、ただ歩いて職場へと向かう道のり。だがネーナは、この時間が決して嫌いではないのだった。
2011-01-03
魔術師組合という小説を転載ー受難2
闘技場の前では、チケットを高値で転売する者や、温かい飲み物を売ったり買ったりする人でごった返していた。出場者の家族もいるのか、怪我をしないようにとか、もし優勝したらといった会話が切れ切れに聞こえてくる。
「裏口いこうよ、裏口。こっそり入れたらおもしろいじゃん」
「なにか食べなくていいの?」
「あとにする。バニーのオゴりで」
はぐれないように太い腕にしがみつき、ネーナは常になくはしゃいだ声でいった。
髪を結い上げて高価なコートに身を包んだネーナと、都一有名なギルドの制服をきちんと着込んでニコニコしているバニー。二人の姿は、傍目には身分違いの恋に身を投じた恋人同士に見えたかもしれない。
「バニー、いちいち雑貨屋の前でひっかかるなってば! そんな髪飾りどこにつけんだよ、ハゲのくせに!」
「んまぁ、ハゲじゃないわよ! 短くしてるだけじゃないの、ネーナの意地悪っ」
しかしてその実体は、口の悪い娘と繊細なオカマの親友同士なのであった。
人ごみと遅々として進まぬ列に悪態をつくネーナの口に飴を放り込んで、バニーは彼女の髪をなおしてやる。栗色の巻き毛を結い上げてやったのも、眉を整えて化粧してやったのもバニーだった。
「ネーナは黙ってたら美人なんだから、もうちょっと身なりと言葉づかいに気をつけなさいよ。さっきの髪飾りだって、あなたの薄茶の瞳によく似合ってたわ」
「めーんどくさーい」
鼻に皺を寄せて顔をそむけ、ネーナは壁沿いにどんどん進んでいく。ぶつかったり押しのけられた人の迷惑顔にも、おかまいなしだ。やがて出場者や裏方のスタッフが出入りしている扉を見つけると、バニーの後ろに下がった。
入り口に立っている兵士の制服を見たところ、王宮から派遣された警備らしい。そちらを顎でしゃくり、相方の鼻先にびしっと人差し指を突きつけて命令する。
「ほれ、魔術師組合デスっていえよ」
「え、えぇ? それって効果あるの? むしろ組合の名前は出すべきじゃ――」
「知ったこっちゃないよ。おなかすいてんだから早くしろ!」
「なんの関係があるのよぉ」
すごい顔で睨んでくるネーナと警備兵とを、おろおろしながら交互に見やっていたバニーが、あっと小さく声を上げた。
「見て、ネーナ! どっか行っちゃった!」
見てと言っておきながら、彼は振り返る間もなくネーナを肩に担ぎ上げて走り出した。振動でごつごつの肩が腹に食い込んでは吐きそうになるのをこらえ、ネーナは身をよじって進行方向を見やる。
「お、おぉ! でかしたオカマ!」
「オカマって言わないでッ!」
言い終えると同時に裏口から闘技場に滑り込み、バニーは天井から下がったカーテンの間をするすると移動した。ほどなく狭い廊下に行きあたり、小さな目をくりくりさせて周囲をうかがう。壁にかけられた蝋燭の明かりだけが頼りで、おそらくは出場者が控え室からアリーナに出るために使う通路だ。
「ここ、すごく入り組んでるのよねぇ……メイはどちらにいらっしゃるのかしら」
「高貴なお方は高い場所が好きって相場が決まってんでしょ。一番高いとこ行きゃいいじゃん」
二人の声は石壁に反射して、意外なほど大きく響く。
「私たちが行ってどうするの。おそばには近づけないんだから、お姿が拝見できる場所をさがすのよぅ」
「拝見とかいって、単なる盗み見じゃんよ」
バニーの肩に担がれたまま、ネーナはつぶやいた。
さっきの騒ぎで飴玉を丸々飲み込んでしまい、胸につかえている気がしてもやもやする。叩いてみても咳払いをしてみてもなおらず、いらっとした彼女はバニーの背中を力任せに殴りつけた。
「いたぁいっ! ちょっと、なにするのよぉッ!」
「うるさい! チケット買わずに忍び込んでるんだから、静かにしろ!」
バニーよりよほど声が大きいのは自分なのだが、そんなことは棚の上に放り投げる。
人に見つからないようしばらくウロウロしてみたが、絶好の覗き見ポイントもなかなか見つからない。観覧席の入り口で、係員がチケットを検めているのも一因だ。そのうち建物を揺らすほどの歓声が遠くから聞こえてきて、本日の第一試合が始まったことを知った。
「……おなかすいたなぁ」
「さっきは後にするっていったくせにぃ」
「いまの騒ぎで急に徒労感に襲われた、そうしたらおなかすいたんだよ。バニーのせいだ。なんとかして。飴はやだよ」
頭の上からきっぱりと言い切られ、バニーはため息をついた。ネーナの大食らいは今に始まったことではないし、彼がそのわがままし放題を許してきたのもまた、今に始まったことではなかった。
そっとネーナを床に下ろし、バニーは支給品のコートを脱いで足元に敷いた。観覧席近くの通路は、舞台裏よりは明るくて暖かいが、それでも石畳の上には座らせられないと思ったのだろう。たとえ相手が、大食いと力持ちだけが自慢の乱暴者であったとしても。
「ここに座ってて。絶対に動かないで。おいしいものをチラつかされても、知らない人についてっちゃダメよ?」
「わたしは子どもか!」
「あら、十七は子どもよ」
岩のような顔を笑みの形に作り直して、バニーはキョロキョロしながら通路の向こうに消えた。
バニーのコートに遠慮なく腰を下ろし、ネーナは膝を抱えて小さくなった。劇的な効果はなかったが、それでも尻にわずかなぬくもりは感じる。
自分の膝に額を押しつけ、目を閉じる。うねるような歓声が大きくなり小さくなり、心地よく耳をくすぐると、空腹よりも眠気が強まったように感じた。
(眠い……昨日、遅くまで仕事してたのがいけなかったか)
昨夜は今朝に備えて――ネーナにしては珍しく酒も飲まず――家に持ち帰った書類を相手に悪戦苦闘していた。
ドワーフの王国の略史と、産出される希少魔導鉱のリストの読み込み。それらを元にして造られる各種魔導用具の発注用書類の作成。経理課が出してよこした予算と、開発課が持ってきた見積は、天と地ほどの開きがあったように思う。
暖炉の前に広げた書類を思い浮かべるが、思い出せるのは表紙とタイトルだけで、内容はさっぱりだった。あんなに読み込んだのに。何度もノートに書き取ったのに。
「……やっぱわたし、本物のバカなんだな……」
わかっちゃいたけど、と盛大に息をついて顔を上げると、目の端に黒いズボンの裾が映った。
一瞬バニーかと思ったが、気配も足音もなかったことに気づいて身体が硬直する。それでもゆっくり、目玉だけ動かして脚から上の付属品を確認した。
まず剣を包んだ銀の鞘。赤い石が埋まった柄。幅広の相当な大剣だ、ネーナでもなければ持ち歩くのがやっとだろう。普通なら腰に佩いて平然としていられる大きさではない。きっと魔導鉱を例の魔術でちゃちゃっと細工して、変性させたものだ。自分の給料じゃあ一年分ではきかないな、と計算してしまうのは、需品課職員の悲しい性か。
磨き上げた黒いブーツのつま先、足首まで覆うたっぷりとしたマントの表は黒、裏地は暗い赤。銀糸で大きくなにかの縫い取りがしてあるようだ。魔術師のものに似ているが、材質があきらかに異なる。その人が腰に手をあてているために肘で布地が持ち上がっているが、そうでなければ袷が深くて服まで見えなかっただろう。
それから腰丈の上着。ベルトに竜の横顔を打ち出した銀のバックル、上着のボタンはかなり大ぶりでなにか文字が彫ってある。学生時代に記号学の授業で習った気もするが、ネーナには花や星と同じような絵にしか見えない。
そして左だけつけた肩当。――竜の爪を象った。
「……ま、さか……」
そして衣装の持ち主は、頭のてっぺんから顎まで覆う黒い被り物をしていた。ネーナの角度からでは、咽喉仏しか見えない。よく見ると薄い紗を重ねたその布は、きっと内側からなら外の様子がよく窺える。
額のあたりから頭部を、複雑な曲線を描く細い銀細工の輪で囲い、被り物をとめている。少々の風では脱げたりしないだろう。
全身黒尽くめ。正体を隠すように被った布。そして片方だけの肩当。
「……黒竜、騎士――?」
初めて見た、と呆けている場合ではない。
トランティア騎士団の頂点、黒竜騎士の実態は太子の親衛隊だという。今の太子はメイを名乗るガリオン王子。今ここに黒竜騎士が現れたということは、女王の名代であるメイに随行してきたというわけで。それはすなわち、この近くにメイがいるということに他ならない。
ネーナは貧血に似た眩暈を感じつつ、視線を下げてあわてて両手を振った。
「あ、怪しい者ではございません! ちょっと迷子になっただけで、メイを覗き見しようとかそんなことは!」
騎士は黙って、腰にあてていた手を上げて腕を組んだ。鞘が揺れて剣を吊った鎖がベルトにあたり、かすかな金属音が響く。
「の、覗こうとは、思ったりもしましたが……メイご本人にどうとか、そういうわけじゃ……」
よく考えたら、まだタダ見を目論んだことがバレたわけではない。しかしそれに気づいたところで、今さら誤魔化すにも手遅れだった。
「その……」
反応のない騎士に気圧され、口ごもった。遠い歓声が聞こえるたびに、なぜか絶望的な孤立感を味わう。
かすかな衣擦れの音に、ネーナは顔を上げた。
かしゃん、と銀の輪が飾りの鎖を鳴らし、黒い紗が引き下ろされ――騎士の顔が露になる。伏せていた瞼を開け、その騎士はまっすぐにネーナを見下ろした。
若い男。おそらくネーナといくつもちがわない。
ざっくりと伸びた黒髪は、首の後ろで束ねられている。尖り気味の顎、薄い唇、高い鼻梁。それらが形作る顔立ちは端整だが、なにより夏の空みたいに澄んだ明るい青の瞳に、ネーナは呼吸をするのも忘れた。
こんなに明るい青、見たことがない。
「あ……の……」
放心したまま、口が勝手に言葉を吐き出そうとする。すると騎士は眉を上げ、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「なんだ、見惚れたか?」
はっきりとからかう低い声に、ネーナは我に返った。
「ち、ちがう、びっくりしただけです! 黒竜騎士が顔を見せるだなんて――」
今度は自分の発言に驚いて、言葉を飲み込んだ。
そうだ、黒竜騎士は主の前以外では絶対に顔を見せないはずだ。顔どころか、全身をマントで覆い、身体つきすらわからなくしている。そしてたとえ宰相閣下に求められても、決して一言も発さないと聞く。徹底して個人を特定させないのだ。
「……見せるだなんて?」
騎士の口元には余裕ありげな笑みが浮いたまま、眇められた目は明らかにネーナの様子を観察している。わかっているのに、釈明の言葉ひとつ出てこなかった。
高みから見下ろされることにも威圧されるが、空色の目にまっすぐ射抜かれて、文字通り床に磔にされているような心地になる。しかもその目はお世辞にも笑っているとはいえなかった。
「――ごめんなさい。そんなにメイのおそばに近づいてるとは思ってなくて」
ネーナが目をそらしてうつむくと、さっきより金属音が大きく聞こえて、彼が自分の前に片膝をついたのがわかった。
「そんな、この世の終わりみたいな顔をしないでくれよ。メイは試合をご覧になっておいでだ、近くはないさ」
一転、優しげな声とともに差し出された手を、まさか断れるはずもない。渋々とって立ち上がり、バニーのコートを拾い上げる。すると騎士はそれを指差して、なぜか不快げにいった。
「随分デカいな。話し声がしたのは……彼氏か?」
「は? いえ、これは友達のです」
あんな岩の怪物みたいなオカマがカレシだなんて、いまこの状況よりもありえない。
バニーのコートをたたもうとして、ネーナは気づいた。
炎をバックに、二本の杖をぶっちがいにした紋章――胸に大きく、魔術師組合のワッペンが輝いていることに。
「あっ!! あの! しょ、処罰されるんですか? どこに出頭したらいいんでしょう、騎士団の詰所ですか?」
背後に隠すには巨大すぎる布の塊を床に投げ捨て、ブーツのつま先で横に押しやる。
だが要人警護のプロに、稚拙な誤魔化しはきかなかったようである。
おそるおそる見上げると、騎士はその端整な顔から表情を消して細く長い指を顎にあてた。
「おまえのトモダチ、魔術師組合?」
「はぁ。いや――友達がっていうか、その、わたしもっていうか……」
しどろもどろで答えると、今度は頭のてっぺんからつま先まで、責めるように眺めてくる。その遠慮も容赦もない視線に気圧されながらもまだ、顎を上げてそれに耐えるだけの根性はあった。
(くそぅ、なんでこんなことに……ボスの呪いか? いや、ジールの野郎だ! 前から怪しいと思ってたんだ、あの陰険眼鏡め! 鍋の見張り番を放棄したくらいで、これだから根暗なガリ勉はいやなんだよっ。上昇志向のエリートなんか大っ嫌いだ!)
歯を食いしばって平静を装うその内側が、かなり支離滅裂になっていると本人は気づいていない。
いけすかない組合長秘書の首を絞める妄想に浸っているうちに、騎士はなんらかの結論に達したようである。
「もしかして、おまえ――」
いったきり、騎士は難しい顔で何事か考え込み、やがて首をかしげるようにしてネーナの顔をのぞきこんだ。
「メイに、会いにきたのか?」
「はぇ?」
思わず間抜けな声で聞き返したとき、騎士の背後から野太い悲鳴が響いてネーナの鼓膜を突き刺した。
「きゃあぁぁぁ! ネーナになにをするの、痴漢! 強制猥褻で訴えてやるーぅッ!」
床を鳴らして突進してくる怒れる小山。ぶちあたったら昇天できる勢いのそれを、ネーナを抱えて軽くかわした騎士は声を上げて笑った。
「痴漢に間違われたのは初めてだ」
「図々しいわねッ! ネーナを放しなさいったら、こ、の――」
猛牛のごとく見事なターンで振り返って正面から騎士の姿をとらえた岩石魔人は、おもしろいくらい顔色をなくして小さな目をいっぱいに見開いた。
「あ、あなたは――」
そして喜劇の大道具かと思うほどしゅーっと小さくなって、冷たい石の床に座り込んだ。
「うそ、だって、そんな……」
「あんた、早とちりの天才だよ、バニー」
自分たちがチケットなしで裏口から忍び込んだことを忘れて、メイの親衛隊を痴漢呼ばわりしたのだ。処分どころの話で済みそうにもなかった。
「仕事クビかな……もしかして牢屋に入るのかな……」
知らずつぶやいた言葉に反応したのか、バニーは心持ち立ち直った様子でネーナを見上げた。
「だ、だだ、だってだってネーナにキスしてるように見えたんだものっ! 泣かないでよ、ネーナ! 牢屋だってどこでだってが私が守ってあげるからぁ!」
「おまえは男用の監獄に行け!! あほか!」
「ひどーぉいぃッ!」
大きな石に窪みをつけて埋め込んだような小さな目からぼろぼろと涙をこぼし、バニーがネーナの腰にすがりついて泣く。その頭を抱えながら、泣きたいのはこっちだ、と思ったとき。
「確かに、メイの暗殺を謀った咎で罰することもできそうだな。俺が個人的に名誉毀損で訴えるのもかまわんが、公務中の黒竜騎士の素顔を見たから反逆罪でもいいな」
(顔!? 顔なんてあんた、勝手に見せやがったくせに――)
その場違いに愉しげな声に猛烈に腹が立ち、ネーナは騎士をぎっと睨みつけた。
「お好きになさればいい! でもこのオカマはちがう、わたしが忍び込むよう命令したんです。こいつはわたしに逆らえないから。それと、組合も無関係です。勤務中に不謹慎なことをしたのは確かですけど」
しかしネーナより頭一つ以上背が高い騎士は、彼女が睨んだくらいでは怯む様子もない。
「メイがご臨席される試合の会場に制服で忍び込んで、無関係ね。魔術師組合から、騎士団への挑発行為と受け取ってもかまわないぜ?」
返す言葉がなかった。
「うっうっ、いやよネーナ……まだ離れたくないわよーぅ」
おいおいと声を上げて泣く親友の頭を抱え、短く刈り込んだ硬い焦げ茶色の髪をなでながら、ネーナは唇をかんだ。かみやぶってしまう寸前、冷たい指が頬に触れる。顔を上げると、あの青い瞳がネーナの目を覗き込んでいた。
「全部、見なかったことにしてやってもいい。――そのかわり」
「そのかわり……?」
途方に暮れる思いで力なく見つめ返すと、騎士は端整な顔を傾けてネーナの耳に低い声で囁きかける。
「結婚しないか、俺と」
「え――?」
だが続く台詞は響き渡るひときわ大きな歓声に大半がかき消され、ネーナにこれは夢なんだと思わせた。